やっぱりツンデレは8:2が至高

隻眼の少女

感想:二代目みかげちゃんの方が好きです(半ギレ)

 

 

半日で一気読みした。

疲れた。

 

読み返すと真犯人に途中で気付く人は結構多そうだなと思ったけど、自分は同じ麻耶雄嵩の「蛍」を意識しすぎて叙述トリックに囚われていたので最後まで気付かなかったです(マジギレ)

 

 

表紙からして異色の存在感を放つ美少女探偵・御陵みかげと自殺志願者にしてワトソン役の凡人大学生・種田静馬。

この御陵みかげが本当に属性てんこもりですごい。陳腐な言い方のは承知だけどアニメキャラのヒロインみたい。

 

いわゆるミステリーでも新本格は特に、奇抜な探偵は当たり前であり、言ってしまえば痛々しいくらい風変わりな探偵役は多い。

しかし彼らは異常で難解な事件を解く人間なのだから、風変わりであるのと同時にそれに伴った超常的な推理力や解決能力を持っているのだ。だから常人とは一線を画した存在であるのも当然とも言える(京極堂犀川先生くらいならわりと常人に近い気はするけど……)

 

一方、御陵みかげは

・母から「御陵みかげ」の名を受け継いだ

・17歳の美少女探偵

・水干姿で手には扇(話すときにパタパタさせて口を隠すのがかわいい)

・隻眼で両の瞳は色違い(片方は義眼)

 

といかにも属性的に風変わりである。盛りすぎィ!

 

でもそれに加えて

・典型的なツンデレ(8:2くらい?)

・静馬との掛け合いがもはやラブコメ

 

ということもあって、痛いのを通り越して人間離れしがちな前述の探偵たちとは違って、非常に親しみやすい(好感を抱くかは別にして)キャラクターに仕立て上げられている。

メフィスト物どころか今時のラノベでもありえないくらいベタベタなツンデレヒロイン。優れた探偵術で事件を怜悧に推理していく一方で、主人公には刺々しくあたり振り回す。ところが解決に向かった事件が一転困難に陥れられ窮地に立たされると、弱々しい姿を主人公に曝け出し、二人は急速に惹かれあっていき……

 

優れた探偵として事件を推理していくが、その流れはよく見るとオーソドックスであり、最後までブラブラしていきなり事件の全てを見透かして解決まで持っていくような安楽椅子探偵(いわゆる神)でもない。

 

御陵みかげは風変わりで奇抜でキャッチーな美少女であるのと同時に、読者の目線からは乖離していない、意外にも等身大とも言える探偵でありヒロインなのだ。しかもかわいい。ブヒィ。

 

 

ということが小説の前半部である第一部では描かれている。

 

はっきりと描かれている。

しつこすぎない程度に描かれている。

「みかげたん最高!」って言いたくなるくらいには描かれている。

 

 

そしてこれがこの小説最大の罠であるいうところに、素直に感心した。

トリックに突っ込みどころはあるし、動機も到底現実的ではない。

でも致命的な齟齬があるトリックではないし、動機も到底理解し得ないものということでしかない。

擁護すると、この小説内に描かれていることだけを読めば、この無茶苦茶に見える展開もトリックも動機も、無茶苦茶に「見える」だけで「不可能でない」のだ。そして同時にありとあらゆることが「可能である」ことも示している。

 

登場人物のほとんどにアリバイもない、あるようなないような動機しかない。

そんな状況で面白いように殺されていく被害者たち。

本格ミステリーは動機を軽視するという批判は度々あるが、その「本格ミステリーは動機を軽視する」という先入観を逆手にとったこともあって、余計に読者は動機の異常性と馬鹿にされたような感覚を強く意識することになり、憤慨する。

実際、いや~な感じにおちょくってくれた。一晩明けて冷静に考えたら痛快さが憤慨に勝ったけど。

 

気持ち悪いくらい属性を重ねたヒロイン探偵と無個性な主人公の前で繰り広げられる凄惨な連続殺人事件。村の伝承の謎。不穏な一族。一旦解決する事件。そして18年後に繰り返される惨劇。そんな本格ミステリーの要素を徹底的に利用し、読者を煙に巻き、憤慨させながら、本格ミステリーの中核に純然たる疑問を投げかける。

 

数ある証拠や手がかりを事件に紐付けるのは誰か?

真の手がかりと偽の手がかりを判別するのは誰か?

手がかりから構築した論理で真相を解明するのは誰か?

探偵である。

 

まだ見ぬ真犯人を示す真の証拠が見つかっていないだけなのではないか?

読者及び探偵に提示された手がかりが全てであると証明するのは誰か?

それは探偵ではないのである。

 

では事件とは、犯人とは、解決とは、真相とは何なのだろうか?

 

結末の真犯人は真相を独白しているが、それが真相であると証明することは、もはや探偵にすらできないという「探偵の限界」の提示。

事件の中で自白によって裏付けされた真相が何度も崩れ落ちていった中で、それら全ての真相を示したのもまた「真犯人の自白」という皮肉。

探偵が推理し、真犯人が認めればそれがなんであろうと真相になる。

それが結末で提示された「真相」なんだと思った。

 

 

 

なんとなく「虚無への供物」を思い出した。

 

 

 

トンデモ事件だけど例の爆発オチもないし続編作れそうだけどたぶんやらないだろう。

「隻眼の少女」というタイトルがこれほどぴったりとハマっている以上、あえて続きをやる必要はないし。でもみかげちゃんのキャラは惜しい……水干美少女最高!

 

でも映像化はできそう。

アニメでも違和感ない設定だし映画2本分くらいの尺があればできるでしょ。

 

 

 

 

 

 

おわり